高圧自家用電気工作物(高圧受電設備)としては、通常電力会社設備との責任分界点となる構内の1号柱に設置されるPAS(柱上気中負荷開閉器)から、架空線やケーブル等の引き込み線(構内配電線を有する場合もある)、遮断器設備と変圧器設備、分電設備が主な構成と考えられます。
これらの設備故障の主な発生原因は雷害であり、一般的にPASやケーブルの引き込み口の被害が一番多く、つづいて受電設備側のCB、VT、CT類、そして変圧器等が全国的な被害順序であると言われています。
PAS被害が多い事については電力会社設備との分界点として、電力会社の配電線路の延長上にあり、誘導雷サージを受ける環境としては、屋外の電力会社設備と同様に過酷なためと言えます。従って、自家用設備による波及事故防止対策は、このPAS保護が最重要であり、構内第1号柱設備のPASには同柱に避雷器を設置し、直近で保護する事が重要です。
配電線や高圧受電設備では、その系統電圧に応じ雷インパルス電圧や交流電圧に対する基準的な絶縁強度のレベルが定められています。各電気設備は、使用回路電圧に十分な耐力を持つと同時に、この基準の絶縁強度に耐える絶縁設計が施されています。実系統に於いては、これ等機器の絶縁強度を脅かす高い雷サージや回路の開閉に起因する異常な過電圧が発生し、絶縁破壊による系統事故を引き起こす事があります。
避雷器は、これらの異常な過電圧をその保護レベルに制限して、機器の絶縁破壊を防止し、機器の基準絶縁強度との協調を保つ事を役割としています。そのために、異常な過電圧を大地に放電して機器に加えられる過電圧を低減する事と、その時に系統電源より流入しようとする続流を遮断して、元の正常な系統状態に自復する機能を持っています。
図15は、配電用機材の絶縁強度と避雷器の保護レベルを示した例です。
分類方法 | 種類 | |
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方式(原理)による |
直列ギャップ付き避雷器
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酸化亜鉛形避雷器〔酸化亜鉛(ZnO)抵抗体を用いた避雷器〕 | ||
定格処理責務による | 公称放電電流 | 10kA…発変電用避雷器 |
2.5kA…配電用避雷器 | ||
開閉サージ処理責務 | 25μF…6.6~154kV系統用 | |
50μF…154~275kV系統用 | ||
78μF…500kV系統用 | ||
構造による | 碍子形 | 標準形 |
耐汚損形(含む、活線洗浄形) | ||
タンク形(GIS用) | 単相形 | |
三相一括形 | ||
適用回路による | 発変電用(含む、中性点用) | |
配電用 | ||
回転機用 | ||
直流送電用/送電線用 | ||
直流車両用 | ||
交流車両用 |
現在では殆どが酸化亜鉛(ZnO)素子を特性要素とする避雷器が生産されています。この酸化亜鉛形避雷器は、方式、定格処理責務、構造、適用回路によっても分類され、表2に示す通り多数の種類があります。さらに系統電圧別に、適用される定格電圧が設定されます。6kV系統用については、直列ギャップ付きと、ギャップレス避雷器があり、代表的な構造比較例を図16に示します。
避雷器は所定の電圧以上の雷サージ過電圧が加わると動作し、そのサージ電流を大地に放流して設置点前後の線路電圧を抑制して機器の絶縁破壊事故を防止するものです。
図17に示す様に線路の中間に避雷器が設置されている場合を考えます。線路に雷サージ電圧Uが加わると、避雷器の放電電流Iarは次式で表されます。
Iar
=U − EarZ/2 + R
ここで、Ear:避雷器の制限電圧
です。又、避雷器放電後の避雷器設置点の電圧U’はIarを用いて、
U’= Ear + R・Iar
で表されます。
Ear = 20kV、Z = 400Ω、R = 30Ω、U = 250kVとすると、Iar = 1000A、U’= 50kVとなり、避雷器設置点での電圧は250kVが50kVに抑制されます。
線路に誘導されたサージ電圧が伝搬し末端の開放点に達すると、電圧サージは線路のサージインピーダンス(約400 〜 500Ω)が、ほぼ無限大のサージインピーダンスに急激に変化するため正の反射を生じ、元のサージ電圧の2倍に上昇します。
高圧需要家の受電用変圧器の一次側は、この末端柱と同様な条件にあると言えます。このため、線路の中間点に対し、末端では同一の雷撃電流によって発生する誘導電圧以上の電圧が加えられる事を考慮しておく必要があります。又、避雷器の放電電流に於いても、(a)項の線路中間柱と比較して末端柱では避雷器放電電流が増加となり、末端の避雷器の方が苛酷になります。
電力各社の配電線では誘導雷サージを対象として、被保護機器が保護距離内に入るように避雷器の平均施設間隔を200m以下としています。柱上変圧器、開閉器等の重要な機器の保護、さらに架空線とケーブルの接続点、線路の末端、屈曲点、分岐点等では、雷サージ過電圧が反射等により大きくなると考えられ、その有効保護距離を50m 以内となる様に避雷器を設置すべきです。
他に耐雷素子と呼称される酸化亜鉛形の避雷素子を内蔵して開閉器や変圧器を保護する事があります。
(a)電気設備技術基準の解釈(第37条)では、受電電力の容量500kW未満の場合には避雷器設置の義務付けをしていませんが、雷サージの侵入はその容量に関係無く発生するものであり、架空電線路から供給を受ける需要家の引き込み口と、これに近接する箇所に避雷器を設置することがより効果的です。
図18に引き込み結線例を示します。
構内配電線を有する場合は、100 〜 500mの間隔内で避雷器を設置し、さらに主遮断器、変圧器等の重要設備(キュービクルや受電設備室)にも避雷器を設置して、屋内の低圧系に到達するまでのサージ過電圧を数段階に亘って低減する保護方法(多段設置による防護)が推奨されます。
(b)避雷器は、それによって保護される機器の最も近い位置に設置する事が重要です。自家用設備による波及事故防止対策は、PAS保護が最重要であり、構内第1号柱設備のPASには同柱に避雷器を設置し、直近で保護します。
地絡継電装置付き高圧交流負荷開閉器(SOG付PAS)にあっては、低圧制御系電源に耐雷対策が施されていない場合、それへの波及を考慮し機器の接地点と避雷器の接地点は2 〜 3m離す必要があります。
(c)引き込みケーブルの有無にかかわらず、引き込み口には避雷器を設置する事が望ましい。
(d)避雷器による保護を確実にするためには、図19に示す様な被保護機器と避雷器接地の連接が効果的となります。但し接地抵抗が大きい場合、接地電位上昇が低圧側へ侵入して、機器(低圧系)の絶縁が破壊してしまう事のない様に注意する必要があり、接地抵抗の低減(2 〜 3Ω等)や、低圧系への耐雷対策も併せて実施する事で、より信頼性を高める事が可能になります。
雷の多い地域では発生頻度だけで無く、近傍雷の発生する機会も多く、過酷な雷サージ過電圧の発生が見込まれます。このために被保護機器にできるだけ近接して設置し、接地抵抗を低くする事が望まれます。前述のように接地抵抗が2 〜 3Ω程度得られる様であれば、機器と避雷器の接地を共用する事により、より一層の耐雷効果を得る事が可能です。又、雷電流の処理性能の大きな5kA、10kA用避雷器を使用する事も推奨されます。
電気設備技術基準の改定により、従来の接地工事の種別は第1種、第2種、第3種及び特別第3種から、A、B、D及びC種に変更されました。そして技術的内容を具体的に示した「電気設備技術基準の解釈」が制定され、それに基いて各種機器の接地が施されています。
機器の接地は、その性格上からほとんどが感電防止等の保安用であると言えます。それに対し、避雷器の接地は雷サージ電流を大地に流し、それによる過電圧を低減する事を目的としています。
高圧避雷器では、電気設備技術基準の解釈(第37条)により、A種接地工事(10Ω)を施す事になっています。但し、架空電線路(配電線路)では変圧器のB種接地工事から1m以上離隔した時は、30Ω以下にすれば良いとなっています。接地抵抗が高い場合、線路と大地間に発生する電圧は、避雷器の制限電圧と放電電流による接地抵抗の電位上昇の和になる事から、避雷器による保護効果が減少します。一層の保護効果を上げる為には、10Ω以下のできるだけ低い接地抵抗とする事が必要です。避雷器は一般には単独接地を施しますが、特に単独接地しなければならないとの規定は無い為、接地網を共通の接地極としているような設備(建家内)等では、遠方に引いて単独接地するよりも、連接して接地線を出来るだけ短くする方が避雷器の保護効果は高まります。これは機器の線路側端子とケース接地端子間に、避雷器がより近接して設置され、接地抵抗電位が機器に加えられない事による効果を意味しています。(等電位化)