激しい雨や雷、雪を伴う積乱雲は、雲の内部であられ※1や雹(ひょう)※2 が衝突することにより正電荷・負電荷が分離する作用があります。雷を伴う積乱雲(雷雲)は、電荷分離が特に強いため大気の絶縁が破壊され、雲内や地表とのあいだで放電が起こります。これが雷です。
積乱雲内部の帯電メカニズムは厳密にはまだ解明されていません。最も有力な説は、あられと氷晶※3の衝突によりあられと氷晶がそれぞれ異なる極性に帯電するというものです。-10℃を境に、あられは負に、氷晶は正に帯電します。軽い氷晶は上昇気流により上方に位置し、重いあられは下方に位置するため、雲内に正・負の電荷が溜まると考えられます。地表では雲底の電荷に対応した反対極性の電荷が静電誘導作用によって集まり、蓄積されるにつれ、雲と大地間の電圧が高まります。最終的には大気の絶縁を破壊し電気的に結びつくことで対地放電(落雷)し、電荷が中和されます。これが落雷の主放電です。
雷は季節性や電気的性質の違いから、夏季雷と冬季雷の2つに大別されます。
夏季雷は、夏の太平洋高気圧に覆われた気団の中で、日射に伴う熱と上空の寒気によって大気が不安定になり発生します。一方、冬季雷は、シベリア気団の強い寒気の吹き出しに伴い、寒気が相対的に温かい日本海上を通過することで大気が不安定になり発生し、特に、東北から北陸地方にかけての日本海沿岸部で多発します。
図2は、夏季雷と冬季雷を模式的に示したものです。夏季雷と冬季雷ともに基本的には上部に正電荷分布領域、下部に負電荷分布領域をもつ構造になっています。冬季雷の負電荷や雷雲下部の正電荷は短時間(数分から10数分程度)で消滅するため、短命な電荷分布を(+)、(-)で示します。夏季雷は冬季雷に比べ、雲底と雲頂の高度が高く、雲内の電荷分布領域は地表から約5km以上の高度に分布しており、落雷回数が多いことが特徴です。一方、冬季雷は夏季雷に比べ、雲底と雲頂の高度が低く、雲内の電荷分布領域は地表から約2km以上に分布します。落雷回数は少ないですが、1回の落雷の中和電荷量(落雷のエネルギー)が夏季雷の数10倍から100倍程度大きい場合が多いことが特徴です。
落雷は極性と放電の進展方向の違いにより、図3に示すように4種類に分類されます。落雷時に雲内の正電荷が中和される場合は正極性落雷、負電荷が中和される場合は負極性落雷と呼びます。落雷の主放電(激しい発光)に先行するリーダの進展方向が地上から雷雲に向かう場合を上向き、雷雲から地上に向かう場合を下向きと呼びます。夏季雷の落雷の90%以上は、下向き負極性落雷(a)で、落雷の放電路の枝分れが下向きに広がり、夏季によく目にする落雷がこの現象です。一方、冬季雷は、正極性落雷(b)、(d)が約半数を占めます。これは、夏季雷に比べ、雲内の上昇気流が弱いため、雷雲内の下層の負電荷や正電荷が雨や雪と共に落下し、上層の正電荷が残るため、正極性の落雷が多くなると考えられています。また、雲底が地表に近いため、高構造物から上向き落雷(c)、(d)の発生頻度が高いことが特徴です。
ここでは、よく見られる下向きの負極性落雷の多重雷の仕組みの一例を紹介します。
夏の夕立のほとんどが「熱雷」によるものです。太陽の強い日射によって、地表は熱せられ上昇気流が発生し、大気は不安定になって積乱雲(入道雲)が発生します。熱雷はこの積乱雲によって発生します。
「界雷」とは、季節の変わり目などによく発生します。温暖な気団と寒冷な気団、この2種類の異なった気団が接するとすぐには混じり合わないで、寒冷前線・温暖前線となります。界雷はこの2つの前線付近で雷雲が形成されて発生します。
「渦雷」は発達した低気圧や台風の中心付近などで、周囲から吹き込む気流によって上昇気流が通常より盛んになると発生します。気温が高い時は勢力を長時間持続し、移動速度が速いため広範囲に影響を及ぼします。
夏季雷 | 冬季雷 | 誘導雷 | |
---|---|---|---|
雷雲の電圧※1 | 数千万~数億V | 数千万~数億V | – |
雷雲の高さ(雲底) | 1200~2000m | 300m~ | – |
雷雲の高さ(背丈) | 7000~16000m | 4000~7000m | – |
落雷電流(波高値) | 数千A~300kA | 数千A~300kA | – |
継続時間(波頭長) | 1~数十μs | 1~数十μs | 1~数十μs |
継続時間(波尾長) | 数十~数百μs | 時には数十ms超えるものあり | 数~数十μs |
配電線に誘起される電圧(波高値) | – | – | 最大 数百kV※2 |
エネルギー | 大きい | 極めて大きなものあり(夏季雷の数百倍) | 小さい |
電気設備学会:雷と高度情報社会(1999) より